お母さんが帰ってくる時間になって、アオイちゃんと別れたあとも、あかねちゃんはずーっと、ほんのりと湿った指先のことばかり気にしていました。洗ったり拭いたりするのはアオイちゃんに悪いし、別に自分がそうしたいわけでもないのですが、かといってそのままにしておくのもなんだかいけないことのような気がして、どうするのが正解なのか分からないという調子でした。
アオイちゃんが指先を舐めている間、あかねちゃんは何も言うことができませんでした。だから、アオイちゃんの方も何も言わずに、しばらく同じように舐め続けていました。それは、今までに感じたことのない種類の沈黙でした。
時間にすれば、たったの30秒ほどだったかもしれません。けれどそのたった30秒の出来事が、指に受けた小さな舌の感触が、友達のアオイちゃんが自分の指をひたむきに舐めているという図がいつまでも頭から離れなくて、30分ほど残っていた映画の内容は、少しも頭に入ってきませんでした。
そして、犬や猫に同じように舐められたってこんな風にはならないということも、あかねちゃんにはなんとなく分かっていました。


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