「ねえミドリちゃん、暗くなってきたからそろそろ帰った方がいいかも…」
途中途中でまどろみながら、ふと遠くの窓の外を目を向けると、その向こうには染まりたての夜の色が見えました。このくらいになると、普段であればあかねちゃんとも別れている時間です。なぜなら、真っ暗な道をこの小さな体で歩くのは、とても危険なことだからです。
「あら、もうこんな時間……」
それはもちろん、ミドリちゃんだって分かっているはずで、紙面と窓を交互に見つめて、葛藤している様子です。
「ごめんなさい、もう少しここで描いていたいの……あとちょっとで完成まで持っていけるから。だから、アオイさんは先に帰ってて。これ以上暗くなると危ないもの」
一度そう決めたミドリちゃんからは、もう引っ張らても動かないという固い意志を感じました。日を改めて描くことだってできないわけではないはずです。それを選ばないのは、自分の心についた火を、消してしまいたくなかったからではないでしょうか。
「だったら、私も残るよ。最後まで付き合わせて。あ、邪魔じゃなかったらだけど…」
「邪魔なんかじゃないわ。でもダメよ、ちょっとって言ったけど、あと1時間以上は必要だわ。終わる頃には本当に真っ暗よ。だから…」
「だったらなおさら、ミドリちゃんを一人で帰らせるわけにはいかないよ。私なら大丈夫!ここから家までの道なら、私の方が詳しいんだから」
「……勝手にすればいいわ」
そう言うと、ミドリちゃんはぷいっと紙面に向き直りました。そうしたのは怒っているからではないのだと、数日間の付き合いの中でようやく分かってきたような気がします。
あとは、もう本当に完成を待つだけです。途中で、あかねちゃんがご飯に呼ばれていなくなってしまったけれど、もう必要ないと言わんばかりに、ミドリちゃんは脇目も振らず筆を動かし続けています。のっけからアオイちゃんは描き途中の絵を覗くことはしないと決めていたので、どこまで進んでいるかを詳細に知ることはできませんでしたが、いよいよラストスパートに差し掛かっているということが、隣に座っているだけで伝わってくるようです。


