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7話 アオイちゃんとミドリちゃん

真っ暗になった夜道を抜けて、二人はどうにか無事に住居に帰ってきました。

「は~、怖かったぁ…ほんと、あんなに暗くて静かな道一人じゃ無理だよ……」

「そうね。やっぱりアオイさんに残ってもらって良かったわ。せっかく絵が完成しても、帰る途中で道に迷って何か危険な目に遭ってたら世話ないもの……」

「…そう、絵だよ!あか…じゃなくて、あの人間さんの絵!私はやく見たい!」

「そんなに焦らないでもすぐ見せるわよ。てか、私も見てもらいたかったんだから」

そう言って、ミドリちゃんは持ち帰った絵を、鑑賞ができるように設置しました。

それはとても美しく、気品のある絵でした。例えば、大きな図書館のエントランスホールの静謐な空気の中に置かれても、決してその調和を乱さないくらいには。だから、最初の数分、思考を忘れるほどにその絵に見惚れてしまっていたことは、必然だったでしょう。

(あれ、でも、この絵……)

絵に描かれていたのは確かに、最前、ミドリちゃんの隣で眺めていた、読書をするあかねちゃんです。画上のあかねちゃんも、本物と比べて遜色がないくらいにきれいでした。けれど、その絵をずっと見ているとしだいに、感動よりも何かざらざらとした違和感が勝まさってくるのです。

(なんでこんなに……ユーウツそうに感じてしまうの……?)

アオイちゃんの中でのあかねちゃんのイメージは、優しくて、心が広くて、素直で、頼りがいがあって、笑顔が素敵な子、というようなものでした。だから、絵の中の憂鬱で儚げなあかねちゃんは、アオイちゃんにとっていつしか受け入れがたいものになっていました。

このことについて問うと、ミドリちゃんには「自分の絵の説明なんてしたくない」と素っ気なく返されてしまいました。「私があの子から感じたものを描いた、とだけ言っておくわ」

これが、ミドリちゃんからみたあかねちゃんなのでしょうか?アオイちゃんが気付けなかったあかねちゃんの一面を、ミドリちゃんの鋭い観察眼が捉えたということなのでしょうか?

(そんなことないもん。あかねちゃんのことなら、私の方がよく分かってるんだから……)

一度そう言った方向に思考が傾き始めると、どんどん(ミドリちゃんは人間が嫌いだからそういう風に見えるんだ)と思い込むようになっていきました。いつも一緒にいるアオイちゃんより、昨日初めて知ったミドリちゃんの方が、あかねちゃんのことをよく見ている、なんてことを簡単に認められないのは無理もないかもしれません。

別の日、アオイちゃんはあかねちゃんに見せるべく、あの絵を持ち出していいか、とミドリちゃんに尋ねました。けれど「なんのために?」と訝られると、答えに困ってしまい、結局あかねちゃん自身に見てもらうことは叶いませんでした。仕方なく、何も持たずにあかねちゃんに会いに行ったところ「そっかぁー……残念だけど、しょうがないよね。それで、どんな絵だった?」と聞かれ、「あかねちゃん、綺麗に描かれてたよ。本物そっくり」と当たり障りのない返事しかすることができませんでした。本当に感じていたことを伝えるのが、なんだか怖かったのです。そしてそれ以前に、ミドリちゃんに絵の持ち出しを断られたときだって、残念に思う反面、(絵を見せて、もしあかねちゃんが「すごいね。ミドリちゃんは私のことをよく見てる」なんて言ったら…?)という懸念が打ち消されて、ほっとする自分がいることにも気付いていたから、アオイちゃんは(私、ひきょう者だ…)と自己嫌悪に陥らずにはいられませんでした。