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7話 アオイちゃんとミドリちゃん

ある日、アオイちゃんはミドリちゃんの付き添いで、あかねちゃんの家の庭に咲くお花の近くまで来ていました。お花に乗って休んでいるアオイちゃんを描きたいのだといいます。

指示に従ってアオイちゃんがお花の上に登ってからしばらく経ち、お日様が心地よくてうとうととしかかっていた頃。ミドリちゃんの呼びかける声ではっと目を覚ましました。

「ねえ、早く降りた方がいいわ!人間が帰ってきたの…!」

状況が掴めないまま、ミドリちゃんの言う通りに土の上に飛び降ります。そして、間髪入れずにミドリちゃんに手を引かれて、花の陰に隠れさせられました。この辺で、アオイちゃんもようやく状況への理解が行きはじめました。

どうやら、あかねちゃんが学校から帰ってきたようです。高い垣根に遮られて姿は見えないけれど、聞こえてくる足音があかねちゃんのものだったから分かるのです。そうと分かれば、別にこそこそと隠れる必要なんてないのですが、ミドリちゃんが一緒にいる以上、今あかねちゃんと顔を合わせてしまうと話がこじれかねません。なのでここはミドリちゃんに合わせて、しっかりと見つからないように身を忍ばせることにしました。

やがて、ランドセルを背負ったあかねちゃんが、アオイちゃんたちのいる庭へと足を踏み入れてきました。隠れたとはいえ、そのまま庭の横を通過して家の中に入っていくものだと思っていたので、この想定外の行動にアオイちゃんはいくらか動揺していました。そしてそれは、ミドリちゃんも同様です。

「何をするつもりなのかしら…」

「さ、さあ…」

二人は身を寄せ合いながら、その大きな侵入者の動向をの動向をこっそりと見守っています。くっつくミドリちゃんの体の内側から、心臓が刻むリズムがはっきりと伝わってきます。

あかねちゃんが何のためにこの庭に入ってきたのかは、彼女のことをよく知っているはずのアオイちゃんにも分かりません。けれど、あかねちゃんが右手に持っている、ゾウさんの頭を模したような形状の容器が、先ほどから気になってはいました。

のし、のし、と芝生を踏みしめて歩く音を聞いていると、いよいよアオイちゃんもドキドキと緊張した気分にさせられてきます。あかねちゃんと初めて出会った夜に、ペン立ての後ろに隠れたときのことを思い出していました。

「あんな一見気の丸そうな女の子だって油断しちゃダメよ。きっと私たちを見たら、迷わずに捕まえにきて、逃げられないところに閉じ込めようとするに決まってるわ」

その言いように、アオイちゃんはムッとして、思わず口を尖らせてしまいました。

「…そうやって決めつけるのはよくないと思うけど」

「この間もそうだったけれど、あなた、やけに人間の肩を持とうとするのね?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど………私はその、ミドリちゃんにもっと広い見方を持って欲しいというか…」

「広いも狭いもあるもんですか…!私は実際に色んな場所で、人間の悪行を見てきたっていうのに」

そう言い合っている間に、あかねちゃんがだんだんと二人の隠れる場所に近づいてきていたのに、周囲一帯が彼女の作り出す薄暗い影で覆われるまで、全く気がついていませんでした。

二人ともはっとして正面に目を向けると、そこには二人の背丈の優に倍はありそうな、ピンク色の子供用のシューズがずっしりと構えていました。そこから目線を上げていくと、そう遠くないところに(といっても、二人が肩車をしたところで到底手の届かないような高さにですが)見慣れた顔がありました。あかねちゃんが、二人の隠れる花のすぐ前でしゃがんでいたのです。その顔はじっと、何か少し楽しげに二人のいる方を見下ろしています。もう、あかねちゃんに見つかってしまったのでしょうか?でも、アオイちゃんが慎重にその視線を辿ってみると、どうやら二人ではなく、花の方を見ているようでした。

アオイちゃんはそこから、顔を下に戻すことができませんでした。小さな二人を匿ってくれる、背の高い一輪の花。でも、そんな花でも、あかねちゃんの曲げた膝の高さにすら遠く及んでいないのです。

ちょっと前なら、そんなあかねちゃんの途方もない大きさにただただ戦慄するばかりだったでしょう。でも、今はむしろ、興奮の混じったようなドキドキを感じています。

(人間って…あかねちゃんって、こんなに大きかったんだ……。)

そして不思議なことに、ちらりと横に目をやると、あれだけ人間を毛嫌いしているミドリちゃんの方も、見惚れたようにずーっと上を見上げているのです。ひょっとすると、人間の中身は嫌いでも、その巨大な肉体には、芸術家として惹かれるものがあったのかもしれません。

「おっきいね……」

「ええ……」

こっちには見向きもしないまま、ミドリちゃんは口だけで答えていました。それ以降は言葉もなく、二人してあかねちゃんの、大きくて美しい体の虜になっている、そんな時間が続きました。

そのせいで、二人のいる土に注がれようとしていた大量の水への反応が遅れてしまったのです。