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6話 友達と虫かご

「にじゅーよん、にじゅーご」
「はぁ……はぁ……っ」

鬼ごっこが始まってからおよそ20秒が経過しましたが、何か形勢に変化が見え始めるというでもなく、走り続けるアオイちゃんの体力がただただ削られていくばかりでした。
横の距離は少し離れた位置、でも追いつきさえすれば充分に掴まることが出来そうな高さに指を構えて、アオイちゃんをギリギリまで引きつけてからひょいっと素早く引っ込めて、そこからまた少し離れた場所に指を降ろして……そんな単調な繰り返しでも綻びの生じることがないくらいに、二人の間には立場の差がありました。

「さんじゅーろく、さんじゅーなな」
「はあ…っ…!……あっ…!」

もう何回同じことを繰り返したのか分からなくなってきた頃、渾身の飛び込みをするりとかわされたアオイちゃんは、勢いそのままに前方向に転倒してしまいました。

「よんじゅーいち、よんじゅーに、よんじゅーさん」

その間にもあかねちゃんは無慈悲に、淡々と時の進行を告げていきます。それが確かにいつも聞いているあかねちゃんの声であることが、アオイちゃんの心を折ろうとする力が最も強い要素でした。

「よんじゅーなな、よんじゅーはち」

ようやく立ち上がったとき、残り時間はもう10秒しかありませんでした。もう、勝ちを確信しているのか、あかねちゃんはアオイちゃんのすぐ頭上に指を垂らして、動かそうともしていませんでした。

「ごじゅーに、ごじゅーさん」
「っ…、っ…!」

触れることはできるのに。あと少しで、あと少しで掴まることができそうなのに。

「ごじゅーご、ごじゅーろく」

最後のチャンスなのに、あかねちゃんが変わってしまうかもしれないのに。

「ごじゅーなな、ごじゅーはち」

友達だと、信じていたのに。

「ごじゅーきゅう、ろくじゅう。…はい、おしまい」

(そんな…)

体を支える力が全て抜けていくかのように、アオイちゃんははたりと腰から崩れ落ちてしまいました。

俯いたまま、あかねちゃんの顔を見ることができません。正しくは、それだけの気力が湧いてこないのです。どうしてこんなことになったんだろう……昨日まで、あんなに楽しく一緒に過ごしていたのに……カゴの底に手をついたまま、その答えを探すでもなくまるで呪文を唱えるかのように考えていました。

そんな時、ずっと膝に向けられていたらしいアオイちゃんの視線に、とうとう最後まで掴むことが出来なかったあかねちゃんの人差し指が割り込んできました。

「ふふっ、冗談だよ。はい、掴まって」

その手をたどるように上を見上げると、あかねちゃんが笑っているのが見えました。まるで憑物が落ちたみたいな……いや、憑物なんて最初からなかったかのような笑顔でした。