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6話 友達と虫かご

「ひ、ひどいっ!」

指に掴まったアオイちゃんを落としてしまわないよう慎重に運んで、手のひらの上に乗せるや否や、アオイちゃんからそんな非難の声が浴びせられ(というよりは水鉄砲をかけられたくらいの感じですが)ました。

「ご、ごめん。流石に悪ふざけが過ぎちゃってたよね…」
「……まあ、反省してるんならもうこれ以上は言わないけど。それにしても、なんであんなことしようと思ったの?なんか、あかねちゃんらしくない…」
「…それは」

アオイちゃんが説明を求めるのは当然でした。いくら冗談だったと言われても、何の説明もなくいきなりあんな酷いことをされて、「そうだったのか」と納得できる人がいるはずもありません。
何も断らずにアオイちゃんを虫かごに閉じ込めようとしたのは、一度そうしてしまえば、後はそのまま流れるように事が運んでくれるのではないかという期待もあってのことでした。どんなに倫理に悖もとることでも、自分のすることなら、アオイちゃんもきっと受け入れてくれるだろうという、自惚れた期待が…。
けれど、現実はそうではありませんでした。顔面を蒼白にし内側からしきりに壁を叩いて訴える様は、つるりとした壁をよじ登って脱出しようと懸命に足掻いていた小さなクワガタと、一体どれほどの違いがあったのでしょうか。
たとえ善意からの行動であったとしても、どんなにあかねちゃんのことを好いていたとしても、そんなのは関係ありませんでした。あかねちゃんが虫かごの中に見たのは、拒絶……純粋の恐怖を孕んだ、アオイちゃんの拒絶だったのです。
自分の行いを冗談にすることで、あかねちゃんはこのショックの強い光景から目を背けました。けれど、また同じことをすれば、アオイちゃんはきっと同じような反応を見せるでしょう。
だから次の言葉は、あかねちゃんにとってとても言い出しづらいものだったのです。

「あの、アオイちゃん。本当はまるっきり全部が冗談だったってわけでもないの。……えっと、つまりね……アオイちゃん、あの中で生活してみる気はない?」

そのときあかねちゃんには、アオイちゃんの瞳に、再び不安が宿ったように見えました。やっぱり言うんじゃなかった、と思いました。

「って、そんな気あるわけないよね。ごめん、今の話はわす——」
「待って、それじゃ分からないよ!もっとちゃんと説明して!それに、私まだ何も言ってない!」

不安げな顔でいても、アオイちゃんはあかねちゃんから目をそらしはしませんでした。

「そんなこと言うのには、何か理由があるんでしょ?聞くよ、私…」
「アオイちゃん…」

そんな風にまっすぐ見つめられたら、そんな風に言われたら、きっとどんな人でも打ち明けずにはいられなかったでしょう。

「…アオイちゃん、こないだ、夜が来るのが怖いって話してたでしょ」
「うん」
「私、アオイちゃんにこれ以上そんな思いをさせたくなくて、それで……」

きっかけは、さくらちゃんに唆そそのかされたことでした。でも、それはほんの些細なきっかけにすぎません。実際、家に虫かごがないことが分かった時点で、もうその話は綺麗さっぱり忘れるつもりでいたのです。
そのはずが、あの夜、外で嵐が暴れ狂うのが壁や窓を隔てていても鮮明に伝わってくるような状況に身を置きながら、今までで一番安心できる夜だと言い切ったアオイちゃんを見て、平時、彼女がどれだけ過酷で孤独な環境で生活しているのかを告白されて…自分がやらなければならないという思いを強く持ったのでした。たとえ嫌われたとしても、アオイちゃんを守れるなら、それでいいとさえその時は思っていました。結局、困惑したように、やがて少し怯えたように、そして何より、悲しそうに向けられたアオイちゃんの目に、耐えることはできなかったのですが。

「もう…そういうことなら、最初から言ってよ」

呆れからか、それとも安堵からか、大きくため息をついてから、アオイちゃんは言いました。

「いいよ。私、しばらくその中で暮らしてみることにする。……ううん、住まわせてください」

「えっ……」

あかねちゃんは耳を疑いました。あんなに嫌がっていたのに、あんなに怖がっていたのに、こんなにあっさりと了承されるなんて予想していなかったのです。

「もしかしたら、勘違いしてるのかもしれないけど……怖かったのは、別に閉じ込められること自体じゃないよ。急にあかねちゃんが別人みたいに変わってしまったように見えて、それが怖かったの」

その言葉は、不思議なほどすっと中に入っていきました。

アオイちゃんも、同じだったのです。あんなに自分を慕ってくれていたアオイちゃんが、別人になったように自分に怯えるようになってしまう……そのことを、何よりも恐ろしいと感じたあかねちゃんと。

「それに、ずっとそこから出してもらえないってことでもないんだよね?……もしそうなら、ちょっと考えるけど……」

「も、もちろん!出たいって言ってくれればいつでもすぐに出すし、居心地が悪かったらお家に帰ってもらって構わないし、ご飯だって、毎日持ってきてあげるし…」

それを聞くと、アオイちゃんはにっと笑いました。OK、とでも言っているようでした。