寸刻前までの熱狂が、嘘のように静まり返る。
阿呆のようにへたり込むぼく。
ぽたぽたと残滓を落とす蛇口。
そして————目の前でだらりと垂れ落ちる、どろどろ濁った、ぼくの内なる汚れ。
(……は、はは。やっちゃった……)
手の震えが遅れてやってくる。
孤独な自慰の後では決して得ることのできない充足感がそこにはあった。
己の心血を注いだ絵画の完成を見た画家はこんな気持ちになるのだろうか。
あるいは、完全犯罪を成し遂げた後の犯罪者か。
こうして、ぼくが事後の余韻に浸っている間にも、ぼくの内なる汚れは、どろりどろりと、下に向かって、壁面を侵食していた。
未だ洞窟の中の景色のように見えてならないそれは、確かにぼくが今朝一目見た、いたいけな少女の、貴い素肌のはずだった。
(やってやった……)
別に、彼女に対して悪感情を持っていたわけではなかった。けれど、ぼくの心は言いようもない清々しさで満たされていた。どんな方向性であろうとそれは、大胆なことをやってのけた成功体験からくる充足感に違いなかった。
確かにこの身体のせいで、何度も恐ろしい目にあった。その度に自分の選択を後悔したのも確かだった。
けれど、悪いことばかりではないと、今ならはっきりと言える。
不法侵入だって。女子児童への猥褻行為だって。
煩わしい他人の目にも、法にさえも縛られずに、本能の赴くままに、自分のやりたいことをなんだってやれて。その先で目に入るもの、触れるもの全てが未知で、超常的で。
まるで全てをリセットして、幼児期に——実の親さえ怖くて、積み木遊びすら面白かった、あの幼児期に戻ったような、そんな感覚だった。
(なんて素晴らしい気分だろう)
没頭できるほど好きなことも、将来の展望もなく、自分の世界に閉じこもって死んだように生きる毎日の中で、知らず知らずのうちに錆び付かせていた感情。それが、今になって動き出している。
頭の中に、次々と、やりたいことのアイデアが浮かんでくる。
いてもたってもいられず、ぼくは来た道を振り返る。
狭くて薄暗い足指の小径の向こう側から、白い光が差し込んでいた。
眩さに少しだけ目を覆う。
でも、あの光の向こうに、ぼくの知らない世界が広がっている。そう思うと、ぼくの脚は自然、動いていた。
ああ、外に出たら、どんなことをしよう。そうだ、他の女の子の足も見てみたい。サンダルを履いている子はいるかな。いや、運動靴でもいい。靴下のにおいも嗅いでみたい。穴が空いてたら中に入れちゃったりして。大丈夫。何をしても気づかれなかった。きっとぼくが小さすぎるからだ。すごい、小さいっていいな、小さいって最高。ああ、はやく、もっと、もっと————。
16年の人生で失いかけていた未来への希望を、もう一度胸に抱えて、ぼくは駆け出して行く————。
ぎゅっ。
希望へと続く扉は、一瞬にして閉ざされ、2度とぼくの前で開くことはなかった。


