試験監督のバイトなどというのも暇なものである。
割りが良いという理由だけで応募してみたが、スマホをいじることなどもできないから、することといえば意味もなく教室をぶらついたり、受験生たちの細かい仕草や表情をぼーっと眺めているくらい。実に退屈な仕事だ。
(ふあぁ……、)
出かかったあくびを慌てて噛み潰す。
誰かに聞かれはしなかったかと、教室を見回したが、児童たちは皆目の前の問題に集中していて、たかが試験監督のあくびなど意にも介していないようだった。
大した子たちだ。と彼は思う。退屈を感じ始めてから10分くらい、教壇の正面の子の問題用紙を少し覗いていたが、中には現役大学生の彼でも解けるかどうかという問題も何問かあった。
(俺が小学生の頃なんて、宿題忘れて先生に怒られてばっかりだったもんなぁ)
なんてしみじみと思い出しながら、教室の中を眺めていると、1人の児童の手が上がった。
「すみません。お腹痛くなっちゃって。お手洗いに」
用件を聞きに向かうと、その女子は小さく答えた。
顔を見て思い出したが、開始直後に消しゴムを落としていた子だった。
「答案回収しちゃうけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
解答用紙を回収すると、その子はツカツカと早足で教室を出ていった。
教壇へ戻りしな、腕時計にちらりと目をやると、時刻はまだ試験終了の15分前を示している。
(大丈夫って……)
あまりよくないとは思いつつ、裏返しで貰った解答用紙をこっそりと返す。
見ると、確かに解答欄は全て埋まっている。式まで書く必要のある問題も、彼の見る限りでは特に破綻などは無さそうであった。
(へえ、大したもんだなあ)
消しゴムを拾った時にも、大人びているというか、小学生ながら「デキる女」という印象を受けた。秀才とか、才色兼備とか、そういう言葉が似合いそうな子だった。
(ああいう子が、模試の順位表の上位に載ってたりするんだろうな)
と、彼は何気なく解答用紙の氏名欄に目をやった。
菅谷知里、と整った字で書かれていた。


