(……っ、!)
これは、本当に現実なのだろうか。
この身になってから、今ほどそう疑ったことはない。
そばに来ると分かる、頭が蕩けてしまいそうなほどの、病的に甘ったるい匂い。ショッキングピンクの匂い。
しかしそれは、飴の匂いであって飴の匂いではなかった。飴など砂糖の塊であり、本来、それ単体で匂いを発するものではない。
つまりこれは、溶け出した飴に味付けされた、別のものの匂いということ。
目を血走らせながら、その手をゆっくりと、飴玉に近づけていく。
そして、両脇の指を出し抜いて、中指が触れる。
男はそこで静止した。中指の先っぽから流れ込んでくる情報量のあまりの膨大さに、正確には、その後ろに待機している情報のひしめく音に、恐ろしくなったからだ。釘の細さの壁穴から、シロアリの活動を垣間見てしまったような気分だった。
しかし、それだけ恐れていながら、男は中指のみならず、薬指も触れた。人差し指も触れた。小指。親指。
(あ、あぁ、あ……)
そして、手のひらで触れ、男は飴玉を触った。
出来たての料理のように、それは温かかった。
目隠しをしていれば、中華丼の餡を素手で触るのと、何の違いもないだろう。
だが、男は目の当たりにする。
(う……)
ねちゃ……。
手を離そうとすると、そんな音が静かに鳴った。そして。
(……!う、うわ、うわ……!!)
引っ込めた手から、飴玉の間に、無数のねばついた糸が引いているのを、はっきりと見てしまったのである。
全部、ここなちゃんという6歳の女の子の、唾だった。


