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2話

初恋の女の子は、少食だった。

昼休みに入ってもまだひとり給食を食べ続けていた彼女が気になって、少年は声をかけた。

——ぼくがかわりにたべてあげるよ。

友達はみんな、校庭でサッカーボールを追いかけていた。

好きな女の子に、良いところを見せたやりたいという思いはあった。けれど、それ以上のものではなかったはずだ。

女の子の席についた。椅子に敷かれた防災頭巾が、自分のものと同じ素材で作られているはずなのに、全く別物のような感触がして、少し戸惑ったのを覚えている。そして、皿の上に置かれたプラスチックの箸を手に取ると——その先っぽが湿って微かに光っているのが、目に入った。

どきり。

思わず手が、止まってしまった。

——ねえ、早く食べて。先生きちゃうよ……。

彼女に急かされて仕方なく、あるいはそれを免罪符に、その箸で給食のおかずを口に運んだけれど、味はちっとも分からない。はっきり言って、箸の先についた女の子の唾の感じだって、少年には分からなかったのだ。

けれど少年にとって大事なのは、女の子の唾が具体的にどうだったかではなくて、女の子の唾がついた箸で給食を食べてしまったという事実そのものだった。

少年が同い年の女の子に感じた微熱のともなったどきどきを、男は今も感じている。

もっと激しく。そして、29歳の大人が、6歳の子どもにたいして。1.7センチの虫が、120センチの人間に対して。

ここなちゃんの唾に濡れて光る手のひらを顔に近づけ、匂いを嗅いだ。そして、心臓の高鳴りを感じながら、口に運んだ。その口の中に広がる違和感は、卵白を飲んだ時のことを想像してみればいい。だが、卵白よりもねっとりとして、生ぬるく、いちごの甘さの奥に確かな臭みがあって——とどのつまり、はっきりと、他人の唾の感じがした。

もっともっと、ここなちゃんの唾が欲しくなった。だから、目の前の飴玉にしがみついて、思う存分に舐めた。樹液をすする虫のように——もし、今ここで樹液を横取りしようとするもう1匹の虫が現れていたとしたら、喧嘩が始まっていただろう。お互いに目を血走らせて、髪の毛を引っ掴んで、殴り、蹴り、噛みつき——おおよそ理性を持つものとは思えない、オス同士の喧嘩が。

男は、舐めるだけでは飽き足らず、全身を擦り付けるようにして、その唾を塗りたくった。唾にまみれればまみれるほど、紐が複雑に絡まって解けなくなるように、思うように身動きが取れなくなっていく。身体が蕩けていくような気がするのは、錯覚によるものだろうか。それとも、唾液の消化作用によって、本当の意味で溶かされていっているのだろうか。判然としない。分かるのはただ、心地いいという感覚だけ。ぐったりと仰向けに横たわり、ひと雫にも満たない子どもの唾に、ゆっくりと取り込まれていくようなその感覚に身を任せ、廃人のようにただ手だけを働かせ、射精を繰り返す。その間、ぼやけたレンズの向こうで、真円のシルエットが、少しずつ広がり、影を深くしていることに、気がつくことができなかった……。

(———!?)

男にとって、それは突然のことだった。全身に、潰れるほどの重力がかかる。異変を察知した時には、すでに視界は塞がれていた。あれほど身体に覚えさせたから、のしかかるそれが唾をまとった飴玉であることはすぐに分かった。だが、どれだけ働きかけても、アクリルの床に粘着して微動だにしなかったあの飴玉が、なぜ、今になって。