——おいしい?
声が聞こえた。ここなちゃんの声に違いなかった。
だが、くぐもっているせいか、幼子の声のはずなのに、妙に神々しい響きを帯びていた。
暗闇の中で聞いていると、それが何か、唯一の道標であるようにさえ思えた。
(おいしい、おいしい……)
無心で舐めていたに等しかったが、心菜様がくれた4文字を、うわごとのように繰り返していると、極上の蜜のような気がして、いよいよ舌がとまらなくなる。
自分の意志が介在する余地のない、極限の受動の世界。行為のみならず思考さえも、心菜様に上書きされる。唾でべとべとしたいちご飴を、子どもの指で押し付けられて、無理矢理に食べさせられて、美味しいと言わされて。
この上なく惨めなはずなのに、そんな世界をずっと望んでいたのかもしれない。


