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5話 旧友と共有(後編)

湯船につかりながら考えるのは、夕べ、頬を思いっきりはたいてしまった親友のこと。
がさつで、自分勝手で、距離感なんて全く考えてくれなくて……でも、今も昔も、あかねちゃんが一番気兼ねなく付き合うことのできる、さくらちゃんのこと。

(明日から、どんな顔して会えばいいんだろ…)

あれだけ食欲があって、楽しそうに会話もできるのであれば、アオイちゃんにはもう心配はいらないでしょう。一晩寝れば、きっと明日の朝には体の方もすっかり良くなっているに違いありません。けれど、それが分かったとたん、今度はさくらちゃんの顔が頭の中に浮かんできたのです。
あの時、あかねちゃんは考えるよりも先に、さくらちゃんの頬をひっぱたいていました。そして今になって省みても、そうしたことに後悔はありません。……でも、後悔はあるのです。矛盾のように聞こえますが、今のあかねちゃんの心境についてはこれより他に説明の仕方がないように思えます。

(…きっと、あんなことされて、私のこと嫌いになったよね)

俯くと、水面にあかねちゃんの浮かない顔が映し出されていました。もうしばらく、自分はこんな顔でいたのだろうか、とあかねちゃんは考えました。だとすれば、アオイちゃんが心配するのも無理のないことでしょう。やがてその顔を見せられているのが嫌になって、あかねちゃんは湯船の外に視線を外しました。水が滴るタイルの上に置かれた洗面器が、石鹸で濁った水で満たされていました。あかねちゃんはなんだかそれも見ていられないような気がしたので、結局視線は天井に落ち着きました。
もし、さくらちゃんが腹いせに、昨日のことを誰かに話してしまったら。
それを考えるのは、とても恐ろしいことでした。
アオイちゃんの噂が学校中に広まり、やがて、学校の外の大人たちにまで知れ渡り、大勢の人がアオイちゃんを一目見たいと訪ねてくるようになったり、あるいは、アオイちゃんを我がものにしようと狙う人まで現れたり……もし、そんなことになってしまったら……。お風呂に使っているのに身が震えたことなんて、今までありませんでした。
でも、あかねちゃんの心がいつまでも晴れないでいる一番の理由は、そこではなくて。

(もう、さくらちゃんとは一緒にいられなくなっちゃうのかな……)

ぜっこう。あかねちゃんが心の中で呟いたその言葉は、泣き出してしまいそうになるほど残酷な響きを持っていました。
いい子なんかじゃない。宿題は人に手伝わさせるし、約束は遅刻するし、プライバシーは侵害するし、借りたものは返さないし、何かあるとすぐからかってくるし……愚痴を並べればきりがありません。
でも昔から、困ったときにはいつも味方になってくれる。言いたくても言い出せないようなことを、自分の代わりになって言ってくれる。なにより、いつだって自分の隣で元気に笑っていてくれる……本当はそんなさくらちゃんが、あかねちゃんは大好きなのです。

(…ぜんぶ、明日になれば分かることだよね)

なまじっかぬるま湯につかり、浴槽に背を預けているせいで、あかねちゃんはそんな投げやりな結論に至りました。それはもちろん、自分にはどうすることもできないという、けっして前向きとは言い難い種類の、あきらめに近い投げやりでしたが。