——試験時間は50分です。終了時刻になりましたらチャイムがなりますので、解答をやめてペンを置いてください。なお、具合が悪くなったりした場合は…………
試験監督が淡々と注意事項を読み上げたのち、チャイムの音とともに、テストは始まった。
およそ30人の子どもたちがペンを走らせる音や、問題用紙をめくる音が、五月雨のように降り注ぐ。そんな中でも——件の少女が頭上で立てる物音は、一際大きく、近く聞こえて来た。
コンコンコンコンコンコン————。
子どもたち全員の意識が答案用紙に向いている今がチャンスだと思い、奥井は再び机の陰を飛び出す。そして、死角の外に立ち、顔を上げた。
——やっぱり、よく似ている。
問題用紙に視線を下ろすあの少女の凛々しい表情が、この位置からはよく見える。何かと不便な小さな体も、この時ばかりは都合が良かった。
もちろん、森川安純本人であるはずはなかった。周囲の子供たちに違わず、小学生の身体つきをしていたし、肩の上で二つに結んだ髪型なども本人とは異なっている。
けれど、その目を惹くような黒髪や、細かな顔立ちなどは、まさしく安純を見ているようだった。
————だから、なんだっていうんだ。
奥井はかぶりを振った。自分自身を牽制するかのように。
確かに安純に似てはいる————けれど、相手はまだ小学六年生の、幼い子どもなのだ。


