「ねぇねー、こびとさんママに見せてあげてもいい?」
男の体についた唾を拭き取っていると、心菜が悪びれもせずにそんなことを聞いてきた。
「だめ。見せ物じゃないんだから」
「えー、でもここな、さっきママに見せるっていっちゃった……」
「まさか、こびとさんのことママに話したの?」
意識が、心菜との会話の方に割かれる。そうなると自然、唾を拭く作業は、おざなりなものになる。
「うん。ほんとは見せたかったんだけど、こびとさん途中で逃げ出しちゃったんだもん」
「あのね?もう言っちゃったなら仕方ないけど、これからはこびとさんのことは、ここちゃんとねぇねの2人だけのひみつにして欲しいの。じゃないとこびとさんが、誰か悪い人に取られちゃうかもしれないよ?」
機械的に、淡々と。
優奈は指2つで、ティッシュ越しに、男の体の体を揉みしだく。
「やだ……」
「じゃ、ひみつにできる?ママにもしーっ、だよ」
「ひみつにする」
「うん、えらいえらい。でもこびとさん逃げちゃったって、よく見つけられたね?」
「あのね、こびとさんおもしろいんだよ!ねぇねのおくつに隠れようとしてたの!」
「え、靴……?」
一瞬、半ば無意識に動かしていた指が静止する。
ちなみに、一連の会話は、ティッシュの中の男にも筒抜けである。
指先からくすぐったい感触がする。男が抜け出そうとしているらしかった。
思わず少し力を加えて、脱出を阻止する。そして、とまっていた指を再び動かし始める。
靴と聞いて、記憶の片隅に何か引っ掛かるものがあるような気がしたが、忘れてしまった。
「笑い事じゃないよ!もし見つけられずに、私がその靴履いちゃったらどうすんの!はーもう……とにかく、いーい?今度から勝手に小人さん触ったりしちゃだめだからね」
「じゃあ、ねぇねと一緒ならいいの?」
「それは小人さんに聞いてみないと。ねえここ。ここは小人さんにとって、怪獣みたいにおっきいんだよ。自分よりも何倍もおっきい怪獣に迫られたら、ここだって怖いでしょ?」
「こわーいっ、がおーっ」
分かってるんだか分かってないんだか、とため息をつく。
(あ……そろそろいいかな)
優奈は手を止めて、机の上でティッシュを広げる。
中から出てきた男の体は、水分を拭き取られたばかりか、すっかり搾りかすとなってしまっているようだった。


