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2話

朝。時刻は6時ちょうど。

優奈は目を覚まして、脇で倒れている虫かごを見るなり、肝を冷やした。

(うそ……、私もしかして、やっちゃった……?)

恐る恐る倒れた虫かごの中を上から覗くと、小さな男がこちらを覗き返していて、安堵する。

「すみませんっ、寝てる間に倒しちゃったみたいで……お怪我ないですか?……あ、そっか、えーと……お怪我なかったらジャンプしてくれませんか?……はい、ありがとうございます。あっ、それとおはようございます」

優奈は、その後男に角の方に避難するように指示してから、倒れていた虫かごを起こした。

朝食は、優奈がパンのくずを与えてくれた。

食卓に出された自分の分のパンからちぎって、わざわざここまでもってきてくれたのだろう。

ほんのり味がついていて美味しかったが、これが優奈の手指の塩気なのかもしれないと、余計なことまで考えてしまう。

そんな、悩ましげなブレックファースト。

「やっぱり、あんまり良くないですよね。ここ……」

男はパンくずを食むのをやめて、上半身を振った(首を振るだけでは視認しにくいため、そうする必要がある)。優奈はそれを、遠慮と捉えた。

「でも……また私が倒したりしちゃったらヤバくないですか?」

もし、虫かごが倒れた勢いで、男がベッドの上から転落してしまったり、あるいは気づかぬうちに潰してしまったりしていたら————想像し、ゾッとする。いかに世の中の犯罪に無知な小学生といえども、殺人の重大さを理解していないはずはなかった。

「でも私もう学校行かなきゃなので、ちょっとまたあとで考えます!すみません」

ひとまず、日中ここに置いておく分には問題ないだろう。そう思って、優奈は学校に行く支度に取り掛かった。

髪を整えて、上着を選んで、持ち物を確認して、パステルピンクのランドセルを背負って、それから再度身だしなみを確認して。女の子の朝は忙しい。加えて5年の秋から、優奈の所属しているブラスバンド(ちなみにパートはアルトホルン)の朝練がスタートしたため、ゆっくり話をしていられる余裕なんて無いのである。

「ここちゃん、行ってくるねー」

まだ下のベッドで寝ている妹に囁きかけてから、優奈は登校していった。