4.駆除
向かいの公園で友達と遊んできた帰り、優奈は自宅の前に不審なものが放置されているのを遠目から確認する。それが衣服であることに気づいたのはもう少し近づいてからだった。
ワイシャツ、ネクタイ、それにスラックス。ちょうど部屋と部屋との境界線に落ちていることから、彼女はそれが隣に住む男のものなのではないかという推測を立てた。
でも、どうしてこんなところに?まさか、この場で着替えて片付けもせずにどこかに行ってしまったわけじゃないだろうし……。
加えて優奈は別の違和感を覚えていた。違和感の正体は、その捨てられ方だった。スラックスだけならまだしも、上のワイシャツまで、「ドーナッツ」のような状態になっている。普通に服を脱ぎ捨てた場合、こうはならないはずである。何か、着用者本体だけが忽然と煙のように消えてしまったような……。
ともかく、このまま放置しておくのもよくないと考え、優奈はしゃがみ込んでシャツの襟口に手をかけた。その時、奇妙なモノが目に映った。
瞬時、優奈は飛び退くように立ち上がった。彼女にはそれがシロアリのような虫に見えたのである。——シロアリや蛆のような、日陰に生きる乳白色の害虫は、彼女が何よりも「キモい」と感じる生き物だった。だから、まとわりつく羽虫を手で振り払うような自然な運びで、公園の土に汚れたスニーカーを真上にかざしていた。それが、他人の所有物であるワイシャツの上でなければ、あるいは、彼女がもう少し非常識であったならば————虫はそのまま踏み潰されていただろう。
文字通り一歩手前で踏みとどまった優奈は、渋々とティッシュで潰してトイレに流すことに切り替えた。本来気性の穏やかな彼女を殺虫に走らせるのは嫌悪感と服の持ち主への気づかいだった。スカートからポケットティッシュを取り出すと、しゃがみ込んで虫に照準を合わせる。
見れば見るほど気持ち悪い。乳白色というよりも汚らしい肌色で、理科の授業で習った「むね」や「はら」の部分には微細な黒い毛がすす汚れのように生え散らかしている。頭部は黒光りしていて、カブトムシの幼虫のようになっているらしい。
観察していると、自分の命運を悟ったのか虫は逃げ始めた。慌てる必要もない速度ではあったが、変な所に逃げ込まれても面倒なので早めに潰そうと思った。しかし、またしても優奈に違和感が生じる。いや、違和感どころではない。明らかに不自然だった。虫が立ち上がって、そのまま駆けるように逃げている。
(うそ。これって、)
にわかには信じられなかった。しかし情けなく逃げ惑うその姿は、確かにヒトがそうする様にそっくりだった————。


