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1話

「うん……うん……はーい。じゃねー、また明日―。……」

電話が切れたのを確認し、組んでいた足を解く。

(あ、やば……、)

その時になってようやく、机の上に待たせていた男のことを思い出した。

優奈は第一に、男を足の下敷きにしまっていないかを心配したが、どけた足の向こうに五体満足の男の姿が見え、胸を撫で下ろす。

しかし、行儀の悪いところを見せてしまったことに、彼女はばつの悪さを感じていた。

「す、すみません。つい話に夢中になっちゃって……」

優奈は、歳のわりに慇懃な子どもである。だから自分のしたことは、詫びるべき非礼であったと疑わなかった。ぱちゃぱちゃと飛沫を上げるようだった彼女の声も、静謐な湖面に戻る。

「——さん?大丈夫ですか?」

反応がないのを妙に思い、優奈は男を注視した。すると優奈の目には、男の体が何やら、ボウフラのようにピクピクと痙攣けいれんしているように見えた。

事実。アカシックレコードの1行に記録される揺るぎない客観的な事実は、「優奈が男の自慰を見た」である。

だが、事実は一つであっても、真実は人によって異なるものである。

「どこか痛いんですか?」

その人は苦しんでいた。だから、わたしは心配になって呼びかけた。

優奈が、僕の自慰行為を観察していた。

それでも、僕はやめられなかった。見られたら終わりなのに。こんなもの、彼女に見せてはいけないのに。

優奈が眉をひそめた。

キモ。クズ。ロリコン。

そんな罵倒を覚悟した。なのに。

「大丈夫ですか?」

優奈、キミは。

「どこか、痛いんですか?」

どうしようもなく大人で、どうしようもなく幼くて。

子どもの純粋さにつけ込むような、卑劣な人間にはなりたくなかった。

けれど僕は、キミの臭いを知って。キミに無様な姿を観察される背徳感を味わって。キミが純粋でいる限り、きっと同じことを繰り返す。もっと卑劣な行為に走る。あいつらと同じように。