4.立冬
翌朝。布団への未練を感じながら、わたしは食卓に出された目玉焼きの黄身を崩していた。
時刻は6時10分。蛍光灯の明かりと、ミルクココアの湯気。そして、台所の方で心菜の弁当を詰める、母の背中。
「連絡帳はしまったの?」
「うん」
わたしに背を向けたまま、お母さんが声をかけてくる。いつものやりとりだった。
テレビでは、朝の番組が流れている。しし座は5位で、ラッキーアイテムはリップクリーム、以前からの困りごとが解決するかも、らしい。
占いが終わると、ニュースのコーナーに切り替わった。メジャーリーグに行ったなんとか投手が何勝目を挙げたとか、あまり興味のない話題から始まり、わたしの目線は目玉焼きへと戻っていた。けれど、不意に耳に入ってきた内容に、箸を持つ手が止まる。
《——それでは、次のニュースに参りましょう。縮小機が人体に対して作動する事故が発生です。》
《発覚は、SNSに寄せられたある一連の投稿から————。『やばい見て。小人拾っちゃったんだけど。なんか縮小機で小さくなっちゃったって言ってる』投稿されたのは、一昨日の13時24分。………》
報道の中で、人体の縮小機能が確認された機器の特徴が説明されていた。
それはまぎれもなく、あの人が所持していたそれと同じものだった。
昨日の夜。
わたしはあの人に関する全ての真相を知った。
保身を続け、最後には失禁までしてしまったあの人に対して、わたしは最低とまで言い放ってしまった。
年甲斐もなくお漏らしをする姿のみっともなさに?あるいは、汚らわしさに?
それらも、全くないといえば嘘になる。けれど1番は、裏切られたことに対する失望の念からだった。別に恩を着せようなんて思っていなかったけれど、それでも、わたしは何のためにこんな人の世話をしてきたのだろうと、その瞬間に思ってしまったからだった。
「これ使って、自分から小さくなったんですか?」
「……うん」
「嘘ついてたんですか?」
「……ごめんなさい……」
久しぶりにつないだ会話で、わたしは彼とこんな問答をした。
まるで子どもを叱る大人の図だ。わたしが子どもで、彼が大人のはずなのに。
それに、気のせいとは思えない程度には、彼の口調が幼くなっていて、薄気味悪かった。
「あっ、あの、ぼく、優奈が……すき、で。それで……。」
挙句、こんなことを言い出す始末。
「……はぁ?」
思わず声に出してしまっていた。だから何?というところまで出そうになったのを、ぐっと飲み込んだ。直後に、あの人が雷にでも撃たれたみたいに硬直していたのが、一層わたしを苛立たせた。
いっそ本当に、ダニみたいに縮めてしまおうかと思った。


