正直に言ってわたしは、心菜が数日のうちに「こびとさん」を死なせてしまう可能性の方が高いのではないかと考えていた。そして————彼女に「こびとさん」を与えたのは、それも承知の上でのことだった。
けれど意外なことに、潰してしまうどころか、手足を損なうようなこともなく、心菜は「こびとさん」の飼育を続けられている。
いつも以上に大事に扱っているのか。それとも、あの人の方が必死に生にしがみついているのか……わたしの見る限りでは、こっちなんじゃないかなと思う。
餌やりやトイレ掃除まで全部心菜に任せて、わたしはなるべく関与しないように心がけていた。それでも、彼女の「小人遊び」に、姉として時々付き合わされることはあった。 積み木を延々と登らせたり。ままごとをやらせたり。牛乳の中を泳がせたり。お外に出て、蟻と戦わせたり。
そういう時、あの人が救いを求めるように見てくることがあるのだけれど、わたしはいつも見て見ぬ振り。
「がんばれー。こびとさん。」
心菜に合わせて、冷めた笑顔を貼り付けて、ただ機械のように手を叩いているだけ。
そんなわたしを見て、あの人は悲しげに立ち尽くすのだけれど、やがて諦めたように、目の前の壁に向き直る。
(……自業自得じゃん)
これが、誰かによって否応なく押し付けられた運命であったのなら、まだ同情の余地もあったかもしれない。けれど、「こびとさん」として生き方を選んだのは、他でもない、あの人自身で。それを今更になって助けて欲しいなんて……ほんと、馬鹿じゃないの、って感じ。
遊びが終われば、心菜はあの人をケースに入れて、わたしの机の引き出しに片付ける。そうするように事前に決めていた。管理までを心菜に任せるのは、色々と心許なかったから。
……管理といっても、わたしは何かするでもなく、ただ場所を提供しているだけに過ぎないのだけれど。
だから、文具などを取ろうと引き出しを開けると、いつもわたしの目には、そのケースが目に入る。蓋全体に、わたしの字で「こびとさんのおうち」と書かれたラベルが、セロハンテープで貼りつけられていた。そのおかげで、わたしはいちいち、中にいるあの人の姿を目にしなくて済んでいる。
毎日、家に帰れば心菜が「こびとさん」で遊んでいて。冬休みに入っても、同じような日々は続いて。
気がつけば、もう1月。3学期に入っていた。


