帰宅後、荷物を置きに子ども部屋に立ち入ると、こつん、と足先に何か硬い物が当たった。
視線を落とすと、積み木が転がっていた。そしてよく見ると、他にもおもちゃや文具といった類のものが、ほうぼうに散らかされている。
犯人は、火を見るより明らかである。
「ねぇね、おかえり!」
ちょうど台風の目のような位置から、心菜がわたしに呼びかけてきた。
「ちょっと、なにこれ……?」
床のものを踏んづけないように注意を払いながら、わたしは彼女に歩み寄っていった。
「あのね、いまね、かくれんぼしてるの」
「かくれんぼ……?」
「うん、こびとさんとね」
あぁ……。
という微妙な反応を返すことしかできず、わたしはそれ以上の追及をやめた。
「どうでもいいけど、ちゃんと片しなよー……?」
「はーい」
それだけ言うと、わたしはランドセルをフックにかけて、机に向かい、今日の分の宿題に取り掛かり始めた。漢字ドリルと、算数のプリント。30分もあれば終わる量だろう。
10分そこらで漢字の書き取りを終わらせて、軽く伸びをする。どうもまだ、学校での気疲れが残っている感じがする。
算数のプリントに着手する前に、背後を一瞥すると、心菜がまだ「かくれんぼ」に興じている。
机に向き直り、二つ折りの跡が残るプリントを手で均しながら、わたしは思う。
これで、よかったのだろうか。
昨晩、心菜にあの人を渡したのは、その場の思いつきにすぎなかった。後のことなど何も考えていない。ただ、お世話する責任を手放すのに1番手短な方法に思えたのだ。それに、心菜自身がたびたび「こびとさん」への未練を見せていたというのも丁度良かった。
————ここちゃん。見てこれ。じゃーん。
————わっ、こびとさん!ねーね、見つけたの?
————まーねー。ここちゃんさ、前こびとさん欲しがってたでしょ?
————うん、うんっ。
————はい、あげる。手―出して。
一も二もなく差し出された、心菜の小さな手のひらに向けて、わたしは「こびとさん」を乗せていた手をそっと傾けた。「こびとさん」は、石ころが坂道を転がっていくようにするすると落ちていき、心菜の手に着地————とはならず、落下の寸前でわたしの人差し指の先っぽにしがみついて、そこから離れようとしなかった。
ちさとやうっぴぃが用いた「懐いてる」という表現が不意に思い出され、鳥肌が立つ。即座に親指の爪でこそぐと、それはあっけなく心菜の手のひらに落ちていった。
最後に「こびとさん」は、蚊の羽音のような声でわたしに何かを訴えていたけれど、それも間も無く、大事そうに握りしめられた心菜の手の中に消えてしまい、2度と届くことはなかった。


