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4話(終)

帰宅後、荷物を置きに子ども部屋に立ち入ると、こつん、と足先に何か硬い物が当たった。

視線を落とすと、積み木が転がっていた。そしてよく見ると、他にもおもちゃや文具といった類のものが、ほうぼうに散らかされている。

犯人は、火を見るより明らかである。

「ねぇね、おかえり!」 

ちょうど台風の目のような位置から、心菜がわたしに呼びかけてきた。  

「ちょっと、なにこれ……?」 

 

床のものを踏んづけないように注意を払いながら、わたしは彼女に歩み寄っていった。 

 

「あのね、いまね、かくれんぼしてるの」 

「かくれんぼ……?」 

「うん、こびとさんとね」 

 

あぁ……。 

という微妙な反応を返すことしかできず、わたしはそれ以上の追及をやめた。 

 

「どうでもいいけど、ちゃんと片しなよー……?」 

「はーい」 

 

それだけ言うと、わたしはランドセルをフックにかけて、机に向かい、今日の分の宿題に取り掛かり始めた。漢字ドリルと、算数のプリント。30分もあれば終わる量だろう。 

 

10分そこらで漢字の書き取りを終わらせて、軽く伸びをする。どうもまだ、学校での気疲れが残っている感じがする。 

算数のプリントに着手する前に、背後を一瞥すると、心菜がまだ「かくれんぼ」に興じている。 

机に向き直り、二つ折りの跡が残るプリントを手で均ならしながら、わたしは思う。 

これで、よかったのだろうか。 

 

昨晩、心菜にあの人を渡したのは、その場の思いつきにすぎなかった。後のことなど何も考えていない。ただ、お世話する責任を手放すのに1番手短な方法に思えたのだ。それに、心菜自身がたびたび「こびとさん」への未練を見せていたというのも丁度良かった。 

 

 

————ここちゃん。見てこれ。じゃーん。 

 

————わっ、こびとさん!ねーね、見つけたの? 

 

————まーねー。ここちゃんさ、前こびとさん欲しがってたでしょ? 

 

————うん、うんっ。 

 

————はい、あげる。手―出して。 

 

 

一も二もなく差し出された、心菜の小さな手のひらに向けて、わたしは「こびとさん」を乗せていた手をそっと傾けた。「こびとさん」は、石ころが坂道を転がっていくようにするすると落ちていき、心菜の手に着地————とはならず、落下の寸前でわたしの人差し指の先っぽにしがみついて、そこから離れようとしなかった。 

ちさとやうっぴぃが用いた「懐いてる」という表現が不意に思い出され、鳥肌が立つ。即座に親指の爪でこそぐと、それはあっけなく心菜の手のひらに落ちていった。 

最後に「こびとさん」は、蚊の羽音のような声でわたしに何かを訴えていたけれど、それも間も無く、大事そうに握りしめられた心菜の手の中に消えてしまい、2度と届くことはなかった。