あの時は、本当に危なかった。
正直に言って、あの人が害虫として踏み潰されるだけであれば、別に構わなかった。
ただ、自分の靴下から小人が落ちたところを、誰かに見られていた可能性があったと思うと、ゾッとする。
——先生。優奈ちゃんが靴下に、小人の人入れて、いじめてました。
そんな風に告げ口されれば、きっと、宿題を忘れた時と同じようには済まない。保護者に連絡が行き、PTAの議題に取り上げられて、あるいは、警察沙汰にまで発展するかもしれない。
そこまで、分かっているのに。
どうしてわたしは、あの人の活動を今日も、つま先の下に感じているんだろう。
いつからか……多分、3年生のときにお父さんが離婚して、苗字が変わってからだと思う。
人と違うということが、怖かった。
だからわたしは、以来、いろんな人に合わせるように生きてきた。
ルールから外れないように生きてきた。
きっとこれからも、そうしていくのだと思う。
それなのに、どうして。
「小人に優しくしましょう」ってポスターが、校内に貼られているのに。
周りを見たって、こんなことをしている子なんて、誰もいないのに。
いや、それとも————誰もが隠しているだけで、本当はみんな、こんな風に上履きの中で、小さな男の人を飼っていたりするのかもしれない。
女子の中で1番、かけっこの速いあの子も。
ブラスバンドで、パーカッションのパートリーダーになったあの子も。
椅子の背もたれにポニーテールを垂らした、前の席の、この子も。
縮小機の被害件数は、今わたしたちがこうして、授業を受けている間にも増え続けていて。1割は無事に親族に保護されて、2割は死亡が確認されて……残りの7割は、行方が分からないらしい。そのうちの少なくとも半分が、第三者によって私的に保護されるケースであると言われていた。
ちなみに、縮小禍が始まって半年以上が過ぎて————ちさとも、うっぴぃも、それぞれ「自分の」小人を手に入れていた。
もちろんそれは、わたしたち3人の間の秘密ではあったのだけど。


