10.屈服
子ども部屋の、机の上。
自分を持ち帰った少女は、頬杖をついて、こちらを見下ろしていた。
胸に付けたままの名札には、「菅谷知里」と書かれている。それが、新しい飼い主となる、この少女の名前。
両の耳の下で束ねた、目を引くような黒髪と、細い目。そして、子どもらしからぬ落ち着き払ったいずまいが特徴的な少女。後ろに見える、白と黒を基調とした家具や壁紙が、その印象をより強固なものにしている。
……そう、世にも奇妙な小人を捕まえたら、ふつうはもっとべたべたさわったり、興味深く眺めたりするものだろう。このくらいの子どもであれば、なおさらである。
だが彼女は、先程からずっと口元に薄い笑みを浮かべて、何もせず、口も開かず、ただただこちらを見下ろしているだけ。
それがどういう笑みなのか、分からない。あの時たった一言彼女が発した「こんにちは」も、どういう意味の「こんにちは」だったのか、男には全く分からない。
とにかく、自分から動かなければ話が進まない気がしたので、男は身振り手振りも合わせて、彼女に呼びかけた。
にこり。少女は、目を細めて微笑んだ。
何か伝わったのだろうか。彼女の表情の変化を目の当たりにして、男は少し安堵する。
次の瞬間、男の体は、少女の人差し指に押し潰されていた。


