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3話

20.歓喜

男は、いつか小学校の廊下で、上履きに運ばれた時よりもずっと激しい揺さぶりに苦しみながら、それでも、風にはためくスカートを握る手を決して離さなかった。

(はっ、はあっ、はあっ………はは、は、ははは……!!)

笑いと呼吸の区別もつかなくなるほどに、高揚していた。

本当に、文字通り、一瞬の好機を、ぼくは掴み取ったのだ。

いつか、心菜に捕まったときみたいに、ゆるめた拳のほんのわずかな隙間から、優奈のスカートに飛び移って、ついに、ついに、ついにッ!悲願の脱走を果たしたのだ!!

(………やった……やった、やった………!!!)

優奈はちさと邸を後にし、帰り道を歩いていた。

当然、ぼくがスカートに付着していることなんて、彼女は知る由もない。

冷たく乾いた外の風が、ぼくの裸体を切り刻む。脇を通り過ぎる、自動車やバイクの排ガスにむせ返りそうになる。三半規管は撹乱され、吐瀉物が宙を舞う。何より、優奈の歩行に振り回されて、腕に千切れそうなほどの負担がかかる。

夜の帳は落ちきり、ぼくにはもはや、優奈がどこを歩いているか、あとどれほど耐え忍べばいいのかさえ分からない。

それでも堰を切ったように溢れ出るアドレナリンが、ぼくを支え続けた。

(落ちるもんか、ここまで来て、絶対に落ちるもんかッ……!!)

絶望の底を見てきたこの身に、もはや怖いものは何もない。腕が千切れようと、ぼくにはこの手を離す気なんてなかった。