14.真実
放課後の帰宅時。私の住む405号室の扉のすぐそばで、2人の警官と、それから大家さんが、立ち話をしているのが見えた。
何かあったのだろうか、と私は少し身構えて歩み寄っていった。
「こんにちはー……。」
私の声に、背の高い警官の人が、振り返る。
「こんにちは。あ、キミ。ひょっとしてここの部屋に住んでる子かい?」
「はい、そうですけど……」
「ちょっと聞かせて欲しいんだけど、最近、隣の部屋の人を見かけたことはあった?」
隣の部屋の人。どう答えるべきか、少し答えに詰まった。
「……いえ、最近は見てないかもです」
「最後に見たのって、いつくらいか思い出せる?」
「えっと、…………2ヶ月くらい、前だったと思います」
嘘をついた。
必要もないのに、警察の前で嘘をついてしまって、胸の鼓動が早まる。
確かに、あの人が私の前から姿を消した。
でもそれは正確には1ヶ月前のことで、もう1ヶ月間の彼のことを、私は、知っているはずだった。
警察の人たちは、どこまで知っているのだろうか。2人の目に、不審に写ってはいなかっただろうか。
「……いなくなっちゃったんですか?」
私は努めて、何も知らないふりをする。
「ああ、ちょっとねぇ。郵便受けにチラシが溜まってたんで、怪しいと思って警察の方に来てもらったら、どうもここしばらく帰ってきた形跡がないみたいなんだよ」
今度は、警察の2人に代わって、大家さんが教えてくれる。
郵便受け。そういえば、まだあの人がいた時は、ポストをチェックするように頼まれていた。
姿を消してからは、もうその必要もないだろうと思って、気にかけていなかった。そのせいで————
————そのせいで、なんだというのだろう。
「ちなみに、今日お母様って、何時頃に帰られるか分かる?」
「すみません。お母さんお夜勤で、今日は……」
「ああ、いいんだよ気にしないで!呼び止めちゃって悪かったね、ご協力ありがとう」
背の高い警官の人が、にこやかに挨拶してくれた。どうやら、変に怪しまれずに済んだらしい。
とはいえ、この場にいると、私の心が持ちそうにない。3人に会釈して、そそくさと家の中に逃げ込んでしまおう、と。
そのつもりだったのに。とあるものが目に入って、私は思わず尋ねてしまった。
「あの、それって全部縮小機ですか……?」
もう1人の、恰幅のいい警官が手に下げていたポリ袋。その中に放り込まれていたのは、私の勘違いでなければ、大量のポータブル縮小機だった。
「ああ、そうなんだよ。ちょっと部屋の中調べさせてもらったら、こんなに大量の縮小機が見つかったんだよね。お嬢ちゃん、何か知ってる?」
「——さんの、部屋から…………?」
警官が袋を持ち変えると、それだけで中の縮小機が、ガシャガシャとぶつかり合って音を立てる。一般的に、一家に一台あればいいとされているその機械が、軽く見積もっても100個は入っている。
誰がどう見たって、異常な量だった。
「……いえ、私は何も……。」
「そうだよねぇ」
「あの、すみません、それって全部持っていかれちゃうんですか?」
「あーこれはね……詳しくは言えないんだけど、ちょっとこのメーカーさんの縮小機に問題があったみたいで、回収するように言われてるんだよ」
「……」
警官の人は、事実を伏せてやんわりと伝えたつもりなのだろう。でも。
私が言葉に詰まったせいで、夕焼けに染まる廊下を、沈黙の風が通り過ぎた。
その間隙を縫うようにして、5時を告げるチャイムが、ノスタルジックな音楽を奏で出す。
間がいいのか悪いのか分からない。とにかく私は、チャイムが終わるまで、喋り出すことができなくなった。私がそうするから、気の利いた大人たちも、それに合わせてチャイムが鳴り終わるのを待った。
1分と少しの沈黙。
記憶を掘り起こすには、十分な時間だった。
「……それで……」
「……?何か言った?」
「……いえ」
あの人の部屋から発見された、異常なまでの数の縮小機。
その縮小機に生じたという、全面的な回収が必要なほどの、重大な問題。
時折見せていた、まるで、元の大きさに戻る気がないとでも言うような素振り。
そして。あの人を保護した日に見つけていながら、ずっと隠していた————抜け殻のスーツの袖の中から転がり落ちた、1台の縮小機。
全部、繋がっていく。
いや、信じたくなかっただけで、本当はいつから気づいていたのかもしれない。その証拠に、どこか冷静に、この事実を受け止めている自分がいる。
あの人は、自ら望んで小さくなったんだ。
どうしてか分からないけれど、あんな蟻みたいな体に、自ら望んで————。
「お嬢ちゃん?」
でも、それが分かったところで、もう私には関係のない話だった。


