(え?)
男がその表情を確認できたのは、ものの数秒の間だった。
なぜなら、ものの数秒後には、男の頭上には、別のものが構えられていたのだから。
天井からの逆光によって、その美しいシルエットがはっきりと浮かび上がっていた。それは次第に男の視界を覆い尽くしていき、シェルピンクの濃淡や、しわのディティール、付着したクレヨンの粉までもが、男の目にはっきり映るまでになっていく。
似たような光景を、ぼくは覚えていた。
小さくなって、はじめて優奈と出会ったあの日。
あの日も、優奈はぼくを見て、同じように眉をひそめて、同じような行動に出たんだ。
でも、あれはぼくを虫と勘違いしていたからで。
今なら、そんなはずはないのに。
それがぼくであると、分かっているはずなのに。
ぼくは、一歩も動くことができないまま。
やがて。顔に、からだに、股に、脚に。
その重みと、熱と、やわらかさを感じながら。
————優奈の左の素足に、踏み潰されていた。


