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3話

19.忘れ物

「ねえ、どういうこと?」

「ああああああああああああああああぁっ!!!!」

ぱちん。

ちさとの左の手のひらの上。

デコピンで弾かれ、断末魔を撒き散らしながら、男は激痛にのたうち回っていた。

「今日ずっと、なんでゆーなの方ばっかり見てたの?」

「ああああああああああああああああぁっ!!!!」

ぱちん。

ちさとはなおも、淡々と「お仕置き」を加える。

「全然こっち見てくれなかったよね?私、悲しかったな……」

「ああ……ああ……ああああああぁっ!!!!」

ぱちん。

丸めた左手の指の方に弾き飛ばして、ぶつかったところで、手のひらを手前に傾けて、転がして、また弾いて。

無限お仕置き機の完成。

「しつけが足りなかったのかなあ。ねえ、あなたのご主人様は誰だっけ?」

「ち……ちさっ、ちさぁあああああああぁっ!!!!」

ぱちん。

指で弾くたびに、蚊の鳴くような声をあげて吹っ飛んでいくのが爽快だった。

「ゆーな、お兄さんのこと全然相手にしてくれてなかったね」

「……ああああぁっ!!!」

ぱちん。

思えば、彼は優奈に視線を送るばかりか、隙さえあれば近づこうとしていた。全て、優奈にすげなくあしらわれていたけど。

おそらく、優奈が無害であることを、肌で感じ取ったのかもしれない。あるいは……

「もしかして、お兄さん、ゆーなのお知り合いだったとか?」

「……おごほっ、!!」

ぱちん。

あくまで、そうだったら面白い、くらいの話のつもりだったけど。

よくよく考えてみると、この人を見つけたあの日、優奈の荷物をよじ登っていたことにも、それで説明がつくのだ。

まあ、仮に事実だったとしても、別に大した知り合いではないんだろう。

本当に大事な人なら、私たちと一緒になって、おもちゃにしたりしないはずだもの。

「ゆーなは優しいから口に出さなかっただけで、ほんとはお兄さんのことなんて、ゴミ虫としか思ってないよ」

「……ち、ちが、ちがは、っ……!!………………、」

ぱちん。

親切な私は彼に、現実を教えてあげる。

2度と希望なんて持てないように。

「かわいそうに。捨てられちゃったんだよ、お兄さん」

「…………………う……………あ………………」

ぱちん。

もはや、悲鳴も上がらなくなったらしい。

——でも、私だけは見捨てないよ。

最後にそんな甘い言葉を添えて、優しく撫でてあげようと思った。

「……ちさとー、入るよ?」

(————っ!?)

唐突に、背後から声が聞こえた。

噂をすれば、とでも言うみたいに、それはあの友達の声だった。

がちゃり、とドアが開かれる。

ちさとは咄嗟に、手のひらをにぎる。

「ゆ、ゆーな……どうしたの?」

「ごめん、忘れ物しちゃって……」

ばつの悪そうな顔で、優奈が立っていた。

————また、油断していた。

パパに見られそうになった時ほどは取り乱さずに済んだものの、友達にだって、こんな趣味がバレてしまったらおしまいだ。

「……あ、あった」

優奈は、私のすぐ横を通り過ぎて、「忘れ物」を取りにいった。

それが済むと、そそくさと部屋を出ていった。

「……失礼しました。じゃ、今度こそまた明日」

「ん、ばいばいゆーな」