4時間目の途中。男は自らの足で、ついに5年2組の教室にたどり着いた……はずだった。
教室の入り口は、高々と聳える扉によって守られていた。スライド式扉のため、下の隙間から潜り込むという手段も見込めなかった。だがそれ以前に、扉の向こう側に人の気配を感じない。移動教室の時間だったのだろうか。
扉から外れて、男は力なく座り込む。
見上げると、対面の壁に、5年2組の児童の習字の作品が、出席番号の順に並べられていた。
十人十色の「成長」の字。習字でしか使わないようなファイルにも、どこか懐かしさを感じた。
もちろんそこには、優奈の書いた作品もあった。男子どころか、他の女子たちと比較しても、とりわけ几帳面な印象を与えるその字は、彼女の内面をよく表しているように思えた。優奈の顔が浮かんでくるようだった。
いつになったら、優奈に会えるんだろう。
彼女の顔を思い出すと、いつの間に冷たい雫が頬を伝っていた。成人してから泣いた記憶なんて無かったのに。心細くて涙が止まらない。
朝、優奈と逸れてから、5時間になる。29年生きた中で、1番密度の濃い5時間だったかもしれない。
たくさんの痛い思いをして。たくさんの苦しみを味わって。
それ以上に、たくさんの超常的な性体験をした。
いい加減に認めざるを得ない。自分も所詮、小学生であれば誰にでも発情してしまう、凡百の小児性愛者にすぎなかったのだと。
でも、だけど。
もうひとつ。ようやく分かった。
疲れ切った今の自分によしよししてくれるのは。
大変でしたね……。って言って、その指で、頭を撫でてくれる人は。そんな風にされたいのは。
世界でただ1人、優奈しかいないのだということを。


